――あれ、今、何時だっけ。
 寝すぎて目が浮腫んでしまい、眠気が飛んでいかない。
 ゆっくりと目を開けて時計を見ると、もう午後の一時だった。社会人って、朝と夜、逆転しまうのよね……。
 あー、朝ごはん、作るの面倒だな。とりあえず食パンだけでいいか。
 そんなことを考えながら小さなリビングへ向かう。アパートじゃなくて一軒家に住みたいという願いは、残念ながら叶っていない。
 社会人三年目、未だに彼氏いない歴イコール年齢の私は、仕事を頑張り続けているけれど、まだ収入が安定していない。

 「……電話?」

 一時間ほど前に、スマートフォンから着信があった。相手を見ると、『真子(まこ)』と書かれている。
 ――うそ、もしかして、(みなみ)真子?
 真子は、高校時代の同級生だった。いつも明るくてムードメーカーだった真子とは、親友と呼べるほど仲が良かったと思う。
 高校の同窓会もまだやっていないから、成人式で会った以来かな。そう考えると、時の流れって早く感じる。
 私は急いで真子に折り返しの電話を掛ける。

 「もしもし、真子? さっき電話出れなくてごめん。今起きたとこなの」

 『はーい、真子でーす……ちょっ、待って、結衣(ゆい)だよね!?』

 「……そうだけど、なんでそんなに慌ててるの?」

 『だって結衣と話すなんて久しぶりじゃーん!! うわ、懐かしすぎー』

 「まぁ、そうだけど」

 クールぶってるけれど、私だって正直とても嬉しい。
 真子のことは、忘れられないほど好きだったから。好きって恋愛じゃなくて、友達の意味だよ、もちろん。
 突然電話を掛けてくるなんて何かあったのかな、と心配になる。

 「どうしたの、急に」

 『あー、そうそう! 相談したいことがあるんだよねぇ。真子にも久しぶりに会いたくてさ……。ねぇ、今日の夜空いてる?』

 「えっ、今日? うーん、まぁ予定ないけど」

 そう言うと、電話越しでも分かる真子の喜びの叫びが聞こえた。
 そんなに嬉しいのかな。真子の嬉しさは、私の心まで伝わる。

 『じゃあ決まりね! あっ、飲むのもいいけどさぁ、高校のときお決まりだったあの場所覚えてる?』

 「あぁ、あの場所か……。うん、覚えてるよ。特別だった場所だもん』

 『ほんとに! じゃあ七時にあの場所でね。また後でねーっ、結衣』

 嵐が去っていったように、突然電話を切られてしまった。
 当時、真子が弱音を見せることなんてなかった。悩み事がないんじゃないかってくらい、明るかったから。
 相談があるなんて珍しいから、私のほうが少し緊張してしまう。
 顔は結構可愛くて、女子にも男子にも人気だったから、大人になった今、どう変化したのかも気になる。
 ――真子に会うの、楽しみだなぁ……。