困り果てていると、永田が花束とは反対側をぽんぽんと叩いた。座れ、と言っているらしいい。私はおずおずと腰かける。

 これまで二人きりで話をしたことなんて、なかったのに。

「真野と二人で話すとか初めて」

「同じこと思ってた」

「はは、同期なのにね」

「永田はいつも人に囲まれてたから、私が入る隙なんてなかったよ」

 可愛げのない言い方で返す。心では分かってる、私が彼に話しかける勇気がなかっただけだということ。永田は私にも優しくしてくれたのに、それを上手く返せなかっただけだということ。

 素直じゃない人間だ。

「囲まれてたなんて。そんな事ないけど」

「辞める時あんなにみんなに悲しんでもらえてたんだから、愛されてた証拠でしょ」

「んーだと嬉しいけどね」

「急に辞めるなんて言うから、びっくりしたよ。何か悩んでるんだろうな、ってことは気づいてたけど」

 私がそこまで言うと、永田は申し訳なさそうに俯く。

「あーここんとこずっと、やらかしてたから、俺」

 彼の反応に慌てて首を振った。

「い、いや、別にミスなんて誰でもあるし! 永田は今までなかったから珍しいなって思ってただけだから! 別にそんな落ち込むことないと思うし」

「でもこのままいたら、間違いなくみんなに迷惑かけるって分かってたから」

「……だから辞めたの? そんな、これから気を付ければいいことで」

 永田はゆっくり空を見上げる。目を細めて星を見つめ、どこか話題を逸らすように言う。

「いい職場だったよ。忙しいけど、人もいいしやりがいもあった。真野みたいないいライバルもいたし」

「ライバル?」

 目を丸くして聞き返してしまう。

 私は確かに、永田をライバルだと思っていた。でもそれは一方的なことで、彼は私なんか眼中にないと思ってた。だって、一度だって彼に追いつけたことがない。