ピピピピピピ………ピピピピピピ………。

スマホの目覚まし時計の音。
重い瞼を開けると、そこは木目の天井。
近くのローテーブルを見ると、空になったバニラアイスの容器と半分くらい残っているペットボトルのサイダー。
クラゲの瞳を持つ少女も、力強い声を持つ老人も、優しい女の人も、大っ嫌いな男も、ここにはいない。
ベッドから立ち上がると、いつも通り足元がフラついた。
やっぱり。
あれは、夢だったんだ。
海月と信一さんの存在も、あったとしても、俺のことなんて、まったくもって知らないだろう。
でも、悲しさの中に混ざったなにかが、心地いい。
心がゼリーのように軽いからだろうか。
バニラアイスの容器の横には、海の生き物のイラストが描かれた水族館のチケットが2枚。
俺はスマホを手に取って、とある人に電話をかける。
「もしもし、母さん?」
あの夜の酔いは、もう、醒めたみたいだ。
『……酔夢? 久しぶりだね』
だから、また来てよ。

くらげ。