とある、夏の夜のこと。

コンビニから出ると、蒸し暑い風が頬を撫でた。
片手には不透明のビニール袋。サイダーとバニラアイスが入っている。
セミが夏の訪れを告げるように鳴き、今宵も、月が辺りを照らす。
あの夜から、月が嫌で嫌で仕方がない。
早く隠れてくれ。そう思った時。
「え………?」
海辺に、幽霊が見えた。
海辺は、ここから数十メートル離れた場所にあるけれど、その幽霊だけは、スポットライトに照らされているかのようにはっきりとしていた。
肩くらいまでの長さの黒髪と、ドレスのような白いワンピース。背丈や見た感じからして、中学生くらいだろうか。幼さと大人っぽさの両方を持っている感じだ。
じっと見つめている俺に気付いたのか、少女は、パッと顔をこちらに向けた。
「あ、あの……」
「え? あ、どうしたの?」
少女は俺に駆け寄ってくるなり、慌てた様子で声をかけてきた。
「ちょっと、道に迷っちゃって……案内してくれませんか?」
「道? まぁ、俺でよければ。どこに行きたいの?」
俺がそう答えると、少女は安心したかのようにホッと息をついてから言った。
「じゃあ、“須古星(すこぼし)”って苗字の家まで、お願いします!」
その言葉は俺にとって衝撃でしかなかった。