***
近くに止めておいた愛車に乗ってあたしたちは山を目指した。山の中腹に夜景スポットはある。
「そんでアキラはなんでマッチングアプリなんか急に使ったの?」
助手席に座るまゆが興味津々な様子で尋ねてきた。
「あーえーと」
口ごもっているとまゆはにやりと笑った。
「なーんてな! 知ってる、失恋でしょ」
言い当てられてあたしはぐっと口を噤んだ。まゆは得意げに続けた。
「やっぱりなー。男に振られて『もう男なんて信じられないわ!』とか思って女の子誘ったんだろ」
その自信ありげな様子にむかっとして、あたしは余計なことを言ってしまった。
「違いますよ、男には振られてません」
助手席にもたれかかっていたまゆがわずかに身を起こした。そしてわずかに言い淀んだ。「え、もしかして、あんた、そっちのケがあるわけ?」
「どっちのケですか」
あたしはハンドルを切りながら淡々と返す。するとまゆが急に焦り始めた。
「え、待って、ごめん。あたし無理だから。いや知識としては知ってるけどさ。そういう人のことも応援したいけどさ。あたしは男が大好きだから、ムリ!」
その慌てっぷりにあたしは少し溜飲が下がった。
「大丈夫ですよ。まゆはあたしのタイプじゃないし」
「あ、そうなの、良かっ……良くねえよ! いや、やっぱり良かったの、か……?」
まゆの様子がおかしくてあたしはくすくすと笑った。まゆは不愉快そうにこちらに身を乗り出した。
「ふーん。じゃあどういう女の子がタイプなわけ? 書き込んであったようなのが好きなわけでしょ。あたしと違うの?」
まゆは「あ、年齢、とか言ったらコロス」と付け加えた。
「どういう女の子がタイプって……」
そこまで言いかけてあたしは口を噤んだ。目の前の信号が赤だったのでブレーキを踏む。 別に早希がタイプの女の子だったわけじゃない。というか、今まで早希以外に女の子を好きになったことなどない。
早希が好きだった、それだけ。
「どーしたのよ、黙り込んで」
まゆの声にふっと我に返る。信号はまだ赤のままだった。
「好きなタイプは特にないですよ」
そう答えると、まゆは「かーっ」と酔っ払いのおじさんのような声を出した。
「好きになった人がタイプ、とか言うんだろ! たまんねえな」
信号が青になったので、あたしは適当に相槌を打って車を走らせた。
早希に初めて会ったのは、高校に入学してすぐのことだった。
地方から親の都合で東京に出てきたばかりのあたしは周囲のきらびやかに見える高校生たちの輪にうまく入り込めなかった。いじめなどがあるわけではなかった。ただあたしの存在が空気のように扱われていた。
そんな時に声をかけてくれたのが隣のクラスの早希だった。彼女も中学から東京に来たそうであたしの気持ちをわかると言ってくれた。あたしたちはすぐに友達になった。
早希という友達ができると、周りの子たちとも普通に話せるようになってきた。早希はあたしの恩人でもあった。
「強いて言えば、優しい子がタイプですかね」
あたしはぽつりと呟いた。
「ふーん」
眠くなってきたのか、まゆは助手席のシートにもたれかかって目をこすった。
近くに止めておいた愛車に乗ってあたしたちは山を目指した。山の中腹に夜景スポットはある。
「そんでアキラはなんでマッチングアプリなんか急に使ったの?」
助手席に座るまゆが興味津々な様子で尋ねてきた。
「あーえーと」
口ごもっているとまゆはにやりと笑った。
「なーんてな! 知ってる、失恋でしょ」
言い当てられてあたしはぐっと口を噤んだ。まゆは得意げに続けた。
「やっぱりなー。男に振られて『もう男なんて信じられないわ!』とか思って女の子誘ったんだろ」
その自信ありげな様子にむかっとして、あたしは余計なことを言ってしまった。
「違いますよ、男には振られてません」
助手席にもたれかかっていたまゆがわずかに身を起こした。そしてわずかに言い淀んだ。「え、もしかして、あんた、そっちのケがあるわけ?」
「どっちのケですか」
あたしはハンドルを切りながら淡々と返す。するとまゆが急に焦り始めた。
「え、待って、ごめん。あたし無理だから。いや知識としては知ってるけどさ。そういう人のことも応援したいけどさ。あたしは男が大好きだから、ムリ!」
その慌てっぷりにあたしは少し溜飲が下がった。
「大丈夫ですよ。まゆはあたしのタイプじゃないし」
「あ、そうなの、良かっ……良くねえよ! いや、やっぱり良かったの、か……?」
まゆの様子がおかしくてあたしはくすくすと笑った。まゆは不愉快そうにこちらに身を乗り出した。
「ふーん。じゃあどういう女の子がタイプなわけ? 書き込んであったようなのが好きなわけでしょ。あたしと違うの?」
まゆは「あ、年齢、とか言ったらコロス」と付け加えた。
「どういう女の子がタイプって……」
そこまで言いかけてあたしは口を噤んだ。目の前の信号が赤だったのでブレーキを踏む。 別に早希がタイプの女の子だったわけじゃない。というか、今まで早希以外に女の子を好きになったことなどない。
早希が好きだった、それだけ。
「どーしたのよ、黙り込んで」
まゆの声にふっと我に返る。信号はまだ赤のままだった。
「好きなタイプは特にないですよ」
そう答えると、まゆは「かーっ」と酔っ払いのおじさんのような声を出した。
「好きになった人がタイプ、とか言うんだろ! たまんねえな」
信号が青になったので、あたしは適当に相槌を打って車を走らせた。
早希に初めて会ったのは、高校に入学してすぐのことだった。
地方から親の都合で東京に出てきたばかりのあたしは周囲のきらびやかに見える高校生たちの輪にうまく入り込めなかった。いじめなどがあるわけではなかった。ただあたしの存在が空気のように扱われていた。
そんな時に声をかけてくれたのが隣のクラスの早希だった。彼女も中学から東京に来たそうであたしの気持ちをわかると言ってくれた。あたしたちはすぐに友達になった。
早希という友達ができると、周りの子たちとも普通に話せるようになってきた。早希はあたしの恩人でもあった。
「強いて言えば、優しい子がタイプですかね」
あたしはぽつりと呟いた。
「ふーん」
眠くなってきたのか、まゆは助手席のシートにもたれかかって目をこすった。