「私は数ヶ月の命らしいのです」

 お医者さまから聞いたことを、竜司様に全て打ち明けた。
 病気が進行しているということ。あと数ヶ月の命だということ。……運命の人と巡り逢い、その方が永遠の命と引き換えに、私のことを救っていただければ私は生きれるということ。
 改めて思う。どうしてこんなに残酷なのかしら……と。

 「ふむ、なるほど。運命の人か」

 「はい、そうなのです」

 「そなたは、運命の人が見つかれば、永遠の命と引き換えにそなたを救ってほしいと考えているのか?」

 「……いえ、そうは思っていません。私は村の人々が好きなのですわ。だからもし運命の人と巡り逢っても、私のことを救ってほしいとは思いません。永遠の命と引き換えに……なんて、あまりにも残酷ですもの」

 もっと生きたいと思ってはいるけれど、大好きな人の永遠の命を犠牲に……なんて、私にはできない。
 竜司様は静かに、もう一度私のことを優しく抱きしめてくれた。

 「蘭羅……私は、そなたの運命の人になりたい」

 「竜司、様、それはどういう……」

 「永遠の命と引き換えにして、そなたを救いたいと思っているということだ」

 いま、竜司様、なんて仰ったの……?
 “永遠の命と引き換えに私を救いたい”?

 「そんな、そんなのだめです、竜司様」

 「何故だ」

 「だって運命の人とは、私のことを心から愛してくれる人のことを表しているのですよ。竜司様の貴重な命を、ただの他人の私に頂戴してはいけません……!」

 「ただの他人ではない!!」

 竜司様の荒ぶった大きな声に、私は肩を震わす。
 竜司様のこんな怒った表情、初めて見た……。
 沈黙が続いて、やがて竜司様は口を開いた。

 「私は蘭羅を……愛している」

 「……えっ」

 「出会ったときから惹かれていた。真っ直ぐな黒髪、ひたむきな瞳、可愛らしいその仕草……全て、蘭羅を愛している」

 竜司様は、私を愛してくれているの……?
 涙が頬につたる。王子様の前で涙を流すなんていけないこと。叱られるかもしれない。
 そう思ったけれど、竜司様は優しい目で私を見つめながら、涙を一粒拭った。

 「綺麗な……雫だな。蘭羅、泣かないでくれ。私は蘭羅に笑っていてほしい。金も地位も、いくらでもある。だから……私が運命の人になってもよいか」

 「……そんなの、いりません。私は竜司様がそばにいてくだされば十分なのですわ。お願い……します」

 甘い口づけを交わす。
 竜司様の胸に飛び込むのが……おぼれるのが……怖い。
 だって、だって竜司様の永遠の命を奪ってしまうのよ。
 でも私を愛してくれているのはすごく、言葉にできないくらいうれしい。

 今までにないくらいのパワーが、私の体中に溢れてくる。
 あの胸の痛みも消えている。私の病は治ったのだと、そう思った。

 「蘭羅、病は治ったのか」

 「はい、きっと……いえ、治ったのではありませんわ」

 「それはどういうことだ」

 「……竜司様が、治してくれたのですわ。ありがとうございます」

 「礼などくれるな。私がしたくて、やったことだ」

 竜司様の永遠の命が、私の体にパワーを与えてくれた。
 “愛”って本当に素晴らしいもの。この世でいちばん、無くてはならないものだと私は思う。

 「竜司様」

 「なんだ、蘭羅」

 「永遠の命はなくても、ずっとずっと……竜司様への永遠の愛を、誓います」

 命は永遠ではなくても、愛は永遠に残るのです――。
 そう、竜司様が教えてくれたことを心に秘めて、一日一日愛を大切にして生きていくことを誓います。