妖思村は愛魔村の隣だとはいえ、私は足を踏み入れたことがなかった。
 愛魔村とは違ってたくましい勇敢な人々が多く、何だか雰囲気が違うような気がする。
 この村を創り上げてきた王子様が竜司様なのね……。私とは違ってしっかりしていらっしゃるのだわ。
 色々な建物や城があるけれど、明らかに大きくて華やかな塔が建っていた。周りには槍や弓を持った方たちがいて、石垣がたくさん置かれている。
 ――きっと、ここが竜司様の居所なのだわ。
 恐怖と不安でいっぱいだったけれど、私はそばに近づいた。

 「あの、わたくし愛魔村の蘭羅と申します。竜司様にお会いしたいのですが」

 「愛魔村からやってきたのか。申し訳ないが、身分が分からない者とは、王子との面会は謝絶している」

 「えっと……」

 自分から姫だ、って名乗るのも少し偉そうに聞こえるからいやよね。
 どうしましょう、竜司様にお会いできない……!
 そう思っていたけれど、その兵士の方は私の着物にある紋章を見てとても驚いていた。

 「こ、これはもしかして王家の紋章!?」

 「は、はい」

 「……姓は何と言った」

 「白木乃といいます」

 そう言った瞬間、兵士の皆全員頭を下げてくる。
 私が白木乃家の姫だと分かったようで、門を通してくれた。無事に竜司様のもとへたどり着けそうで安心。
 城へ入って中を見渡す。天井には数多のシャンデリアがあって、赤色と金色のカーペットが敷いてあって……まるで童話の中に入ったみたいな、そんな空間。
 私の住んでいる宮殿とは違って、美しくロマンチックだわ。素敵……。

 「ん? 見ない顔だな。どこの者だ?」

 一人の見張りの方に声を掛けられてしまったけれど、戸惑いはない。
 竜司様に会いたい。ただ、それだけだもの……。

 「愛魔村から来た、白木乃蘭羅といいます。竜司様にお会いしたいのです」

 「白木乃……姫か。了承した。王子の部屋に案内しよう」

 「どうもありがとう」

 言われるがまま案内され、竜司様のお部屋へ向かった。
 アンティークな部屋で、落ち着きがある。竜司様のお部屋だと思うとちょっぴり……ううん、かなり緊張してしまう。
 竜司様は座に腰を掛けていた。

 「王子、お客様でございます」

 「ら、蘭羅!? どうしてここに」

 「竜司様、突然来て申し訳ありません。竜司様にお会いしたくてここへ来たのです」

 竜司様は私の前へ来たと思うと、腕で抱き寄せてくれた。
 竜司様の大きくてあたたかい手に包まれる。何だか気持ちよくふわふわした気分になる……。

 「髪を切ってしまったのか」

 「はい、気分転換に……。そうだわ、竜司様。お話したいことがあるのです」

 「……(なんじ)の病気のこと、か」

 もしかしたら竜司様にお会いするのは……最後なのかもしれないから。
 私は自分の心を決心し、黙ってこくりと頷いた。