宮殿に戻ると、村の皆や沙羅、崚がとても心配していた。
 私が宮殿を抜け出してしまったことは初めてだから、本当に焦っていたそう。
 見合いが嫌だったとはいえ、姫である私が自分勝手な行動をしたことは、もう二度としてはいけないと思ったわ……。
 崚に見合いが嫌なことを正直に話して、何度も何度も謝ってくれた。この見合いの件は無しになり、一件落着となった。


 月日が流れたある日、私は体に異変を感じていた。
 胸の辺りがときどき痛むことが多くなった。少しすれば治まるのだけど、前までは痛みなんてなかったから、少し……不安。

 「姫様、最近痛みがある箇所とかはありますか?」

 「そうね……胸の辺りが痛むときがあるかも」

 お医者さまに診てもらっている最中。
 何もなく診察が終わればいいと思っていた。だけどお医者さまは、深刻な顔をして口を開いた。
 何かあるのかもしれない。私はそう悟った。

 「姫様の不治の病が進行しているかもしれません」

 「そんな……!」

 崚は顔を真っ青にして、頬に涙を流した。
 それを見ていて私は辛くなる。私のせいで崚が泣いているんだわ。
 私の、せいで……。

 「どうにか治すことはできないのですか」

 「僕も、この病気は初めて見たんです。余命一年と言いましたが……このまま進行すれば数ヶ月、と思っていたほうがよろしいでしょう」

 あと数ヶ月。あと数ヶ月で私は死ぬんだわ。
 どうして? 私は愛を大切にするというルールを破った覚えはない。
 人々を愛することだけはずっと守っていた。なのになぜ、私は死んでしまうの?

 「もしかするとあの伝説は本当ではないのかもしれませんね」

 「私たちが不死身だという、伝説?」

 「えぇ。もちろん永遠の命はありますが、姫様だけはこうなってしまう、運命なのかもしれません」

 私だけが余命宣告されてしまう、運命。
 ……辛い。苦しい。切ない。
 だけど運命なら、神が与えたものだもの。受け入れるしかないのだわ。

 「どうにか、姫様を救う方法はありませんか?」

 「ないことは、ないかもしれませんが……」

 「教えてください!!」

 崚はそこまでして、私を助けたいの……?
 どうして人のためにそんなに行動できるの。崚はやっぱり心優しい。
 私もその方法があるなら知りたい。

 「この村は皆、永遠の命を持っていますね。姫様が運命の人と巡り逢い、その方が救ってくれれば――姫様は助かるかもしれません」

 「運命の、人?」

 「えぇ。それは友人でも、家族でも、恋人でも構いません。運命の人と巡り逢い、その方が永遠の命と引き換えに姫様にパワーを与えるのです」

 運命の人。
 そう聞いた途端に、竜司様が頭のなかに浮かび上がった。
 私ったらやっぱり、竜司様のことが……。

 「……とするとその方も、不死身ではなくなってしまうということですよね」

 「えぇ、そうなるでしょう。簡単にはできないことですが、我々は姫様のご無事をお祈りしております。もちろん僕も最善を尽くしますが……」

 「ありがとう。皆さんにお礼を伝えといてくださいませ」

 ……私は強がっているけれど、本当は怖い。
 だってまだ十六の小娘だもの。死にたくないって思うのはおかしいこと……?
 ううん、生きたいって願うのは普通なはずだわ。私は姫であろうが何だろうが、この愛魔村が好き。皆が好き。
 もっと……大好きなこの村で生きていたい。