「何、損って」
「だって、そうじゃない。
私が足を挫いていなかったら、
私は余裕で楚良さんに勝つ」
「まぁ、
そうだねぇ」
「そのはずだったのに、
私は足を挫いて
今は完全に不利な状態」
「う~ん、
まぁ、
そうなるのかなぁ」
「そうなのっ。
それなのに、
楚良は先に行くことをしないで
私のことを手助けしている」
「それは、
当たり前のことでしょ」
「え?」
「怪我で苦しんでいる人がいるのに、
その人を放っておいて
自分だけさっさと行く。
そんなことするわけないでしょ」
「だからっ、
それが損をしているって言ってるのっ。
先に行けば、
私に勝つことができるのに」
「あのさ、
松浦さんにとっての損だと思う物差しが
どんな感じなのかわからないけど、
困っている人を助けることって
損とか得の問題じゃないと思うんだよね」
損とか得。
そういう気持ちで。
助けたことはない、人を。
「……楚良さん、
あなたという人は……」
「さっ、行くよ」