冷え冷えとした彼の声で周囲の空気が一瞬にして鋭利なものに変わる。
少しでも動いたら、皮膚が切り裂かれてしまいそうなほどに。

「……ありません」

「なら、よかった」

にっこりと朔哉が笑い、ほっとその場が緩んだ。



あきらかに嫌々だとわかる様子で、狐の半面を着けた女性が手足にできていた傷の手当てをしてくれた。

「その……」

「……」

「あの……」

「……」

手当てをしてくれた女性も、私を案内してくれる男性も、一言も話してくれない。
ほかの部屋は和風なのに、通された部屋はお姫様が住んでいそうな洋風の部屋だった。

「腹は空いてないか」

返事をする代わりにお腹がぐーっと鳴った。
朔哉にくすくすと笑われ、恥ずかしくて顔が熱くなってくる。
朔哉が合図をするとすぐに、私の前にいなり寿司とお茶が置かれた。

「食べながらでいい。
名前は?
どこの子だ?」

ぱくっと食いついたいなりは、いつも祖母が作ってくれるものよりも揚げがずっとジューシーで、本当に頬が落ちそうだ。

奈木野(なぎの)心桜だよ。
夏休みにお祖母ちゃんの家に引っ越してきたの」