迷い込んでしまったあの日。
友達になろうなんて提案、拒否してしまえばよかったのだ。
いや、それ以前に傷の手当てなどせず、放り出してしまえば。

「……そうだな。
私を綺麗だと言ったのは、あの子に次いで心桜が二人目だったから」

泣きだしそうな朔哉の声は、あのときのことを後悔しているんだろうか。
なら、私はいまからでもうか様の言うとおり、いなくなった方が。

「心桜を妻に迎えたのは後悔していないよ。
たとえ短い間でも、心桜と一緒にいたいと願ってしまったから。
それに――」

「それに?」

途切れた言葉を不審に思い、朔哉の顔をのぞき込む。
けれど彼はなんでもないかのように笑った。

「とにかく。
きっと心桜が死ねば泣くだろうけど。
それでも私は、心桜と一緒にいたい。
心桜が傍にいるだけで幸せなんだ。
またひとりになっても、心桜の想い出があれば生きていけるよ」

「朔哉……」

「だから、私と一緒にいられる時間、目一杯私に愛され、愛してくれるかい?」

「……はい」

面の下から一筋、涙が流れ落ちてくる。
それをそっと、手で拭った。
朔哉の手も私の顔を挟み、親指で目尻を撫でた。

「目、つぶって。
絶対に開けちゃダメだよ」

「うん」

目を閉じると、唇が重なった。
このときは凄く幸せで、私が死ぬまでこの時間は続くんだろうと思った。