「え?」

山の中にこんな大きなお屋敷があるなんて聞いたことがない。
けれどこれで家に帰ると安心した。

人を求めてうろうろする。
裏庭のようなところでなにかしている、巫女のような姿をした女の人を見つけた。

「あの……」

「ひぃっ」

私が声をかけると彼女は袖で顔を隠し、一目散に逃げていった。

「どーしよー」

さらに人を探すか悩む。
こんな大きなお屋敷だ、彼女ひとりだけということはないだろう。
さらに奥に進もうとしたら。

「くせ者はどこだ!?」

ドタバタと数人、神主の普段着のような格好で狐の半面を着けた男がこちらへ駆けてくる。
これで助かったと思ったものの。

「たたき切ってくれる!」

私を取り囲んだうちのひとりがスラリと刀を抜き、大きく振りかぶった。

「ひぃっ。
……う、うわーん」

「……なんだ、騒々しい。
ゆっくり本も読めやしない」

殺される、そう思った瞬間。
その場に似つかわしくないほど、のんびりとした声が響いてきた。
白シャツに黒パンツ姿の若い男は、まるで手品のように空中から狐の半面を出して嵌め、こちらへ歩いてくる。