衣擦れの音と共に、場の空気が少しずつ緩んでいく。
その場からその気配すら感じられなくなってやっと、私はようやくあたまを上げた。

「こわ、怖かった……」

「あー、私でも酷く緊張するからね。
心桜はなおさらだろうね」

ははっと小さく朔哉の口から落ちた笑いは、彼にしては珍しく気弱だった。

「朔哉も緊張したの?」

「当たり前だろ。
……ほら」

私の手をぎゅっと握った朔哉の手は、じっとりと汗を掻いていたし、カタカタと小さく震えていた。

「ほんとだ」

「ね。
私なんか天照大御神様の足下にもおよばないからね」

朔哉でも怖いものがあるんだってちょっと安心した。

また抱き抱えられて移動する。
鳥居の中で一度、朔哉は私の目隠しを外した。

「お色直し、だよ」

ふふっと悪戯っぽく朔哉が笑う。

「でもまた、偉い神様のところに会いに行くんだよね?」

なら、正装じゃなくていいのかな。

「うか様はそうだな……働いている会社の、会長くらいの感じだから。
だからこんな仰々しい正装は必要ない」

「そうなんだ」

朔哉がぱちんぱちんと二度指を鳴らす。