電気を点けていても家の奥は暗く、そこになにかが潜んでいそうで私の恐怖を掻き立てる。

この引っ越しが祖父を亡くしてひとりになった祖母を心配してのことだと理解はしていたが、不満しかなかった。
あとから知ったことだが、そのときの母はパート先の人間関係からそれに付随する近所付き合いに悩んでおり、父はそんな母を思ってこの引っ越しを決めたらしい。

まあ、そんな事情を知ったところで小学生の私は理解しなかっただろうが。


「返してって、それしか言えないのかよっ」

「大事なものなの!
返してっ!」

あと少しで届く、手を伸ばすものの幸太はひょいっとかわしてまた先へ進んでいく。

「なんで返してくれないの!?」

顔は汗と涙でぐちゃぐちゃ、散々走ったせいで呼吸も苦しい。
それでもまだ、諦めなかった。


不満たらたらで転校した小学校は、全校合わせても二十人もいなかった。
父は先生によく見てもらえるからいいだろ、なんて言っているが、嬉しいわけがない。

しかも私と合わせてたったふたりしかいない二年生の幸太は、意地悪だった。