「このまま御前まで行くからね。
掴まってて」

「うん」

この衣装はかなり重い。
それに朔哉の格好だってお世辞にも動きやすいとはいえない。
なのに、私を軽々と抱えて朔哉は歩いている。
これってやっぱり、神様だからなのかな。

進む先で、さっ、さっと逃げていく気配がした。
やはり見えていなくても、人間ってだけで嫌な存在なのだろう。

「はい、ここから歩いてね」

ようやく降ろされ、また朔哉が手を引いてくれる。
けれど今度は十歩ほど歩いたところで止まった。

「ここで座って」

「うん」

おそるおそる、その場に腰を下ろす。
下は板間のようだった。

「天照大御神様のお渡りです」

座ってすぐに、朗々とした声が響き渡る。

「……あたま、下げて」

朔哉の声で、慌てて平伏した。
私の前へ、圧倒的ななにかが近づいてくる。
目隠しをし、さらにあたまを下げていてもわかる、輝き。

「あたまを上げよ」

鈴を転がすような声は、耳で聞くというよりも直接あたまの中へ響いてきているようだった。
衣擦れの音がして、朔哉があたまを上げたのがわかった。
けれど私は、できずにいた。