「どこって神様の世界にも観光名所とかあるの?」

「あるよ。
最初に陸地ができた、於能凝呂島(おのごろじま)とか。
天照大御神様が閉じこもった岩屋とか。
温泉だってあるんだよー」

「へー」

ちょっと、面白そうかも。
でも問題は。

「けど、行くとしても私はこれ着きなんだよね」

空いている手で目隠しに触れる。
朔哉の家の人たちみたいに、行く先々の人たちにお面をかぶってもらうわけにはいかない。

「ああ、そうだった。
八重に雲垣ができる出雲とか綺麗だから心桜に見せたかったけど。
無理、か」

楽しそうに揺れていた手はみるみるうちに失速していく。
私が人間だから、朔哉にはしなくていい苦労をさせている。
そういうのは胸が苦しくなった。

「もう、高天原(たまがはら)に着くからね」

そう朔哉が言ったかと思ったら、ぱっと空気が変わった。
どこからともなく、花のような匂いがする。
空気に色をつけるとしたら、薄桃色って感じだ。

「ここ、階段だから気をつけて。
……って見えないと無理だよね」

「きゃっ」

いきなり朔哉に抱き抱えられ、慌ててその首に掴まる。