たぶん、広大な屋敷の、四分の一くらいしか案内してもらっていないと思う。
なのにここまで、とは?

「突然、心桜が現れたらみんな困るだろ。
だから、悪いけど心桜の行動範囲を制限させてもらう」

「ああ、そういう……」

ようするに、この鈴と同じなのだ。
私がどこにいるか、明確にしておかないとみんなが困る。
なら、仕方がないのだ。

「なにかあったら宜生か環生を呼んで。
すぐに行くから」

「わかった」

「それで今日は特別に、お社の方も案内するよ」

朔哉に伴われて屋敷を出る。
少しだけ歩いて、式を挙げた神社の前に来た。

「元々はこっちが、母屋なんだ。
でも使い勝手が悪いだろ。
だから、離れを建てたんだ」

部屋ってものがあまりないこっちの建物は、暮らしにくそうだった。
格式は高そうだったけど。

「仕事はもちろん、祭事もこっちでやってる。
祈りが届くのはここだからね」

いわゆる拝殿の場所には机が並べてあり、多くの人がなにかを記載していた。

「あれってなにをやってるの?」

「ああ、あれ?
神社に来てお願いをするだろ?
その声があそこに届くの。
それを、書き留める仕事」