空元気でもいいので精一杯明るく笑う。
父も母も笑ってくれた。

介添えの女性に手を取られ、狐面の人たちの列に入る。
最後にもう一度、両親を振り返った。
目のあった父が促すように短く頷く。
私も頷き返して一歩踏み出した。

これでもう二度と、両親に会うことはない。

狐の半面を着けた、和装の花嫁行列は雨の中、粛々と進んでいく。
不思議と濡れなかったがそういうのものなのだろう。
日の光に雨粒がキラキラと踊り輝く。
空には虹まで出ていた。
まるで私のこの先を、祝福するかのように。

いつもは森を抜けなければならないのに、今日は一本道だった。
これも神の力なのだろうか。

「心桜」

案内された神殿では、紋付き袴姿の朔哉が待っていた。

「本当にありがとう」

私の手を朔哉がぎゅっと握る。
おかげで恐怖は少し、薄らいだ。
彼に伴われて祭壇の前に並んで立つ。
私に注がれる好奇と嫌悪の視線。
この中で狐面を着けていないのは私ただひとり。
完全にアウェイだが、ここでやっていくと決めたのだ。

「緊張してる?」

小さく頷いたら、朔哉がまた手をぎゅっと握ってくれた。

「私は心桜を幸せにするよ。
これは、心桜に誓うから」

朔哉が私から手を離し、厳かに式がはじまる。

ずっと朔哉と一緒にいると誓った。
どんな困難だって打ち勝ってみせる。

私は今日――お稲荷様の妻になる。