「……ごめん」

「うん」

朔哉の手が、私のあたまをぽんぽんする。
それは初めて会ったあの日と変わらず、優しい。

「私だって心桜と会えなくなるのは淋しいよ。
一瞬、心桜をお嫁さんに迎えようかとか考えてしまうくらいに」

「え?」

いま、お嫁さんとか言った?
いや、それはなんというかこう、……うん。

顔が熱くて上げられない。
朔哉も照れているのか、視線を外していた。

「でも、大人になったらダメなんだよね?」

「結婚するんだったら話は別。
婚姻によって心桜は神に連なるものになって、ずっと一緒にいられる。
ただし……」

「じゃあ私、朔哉と結婚する!」

「……はぁーっ」

朔哉の口から落ちたため息は、深く重かった。

「話は最後まで聞くもんだよ。
……ただし、人間の世界は捨てなければならない。
友達はもちろん、ご両親にも二度と会えない。
そんなこと、できないだろう?」

すべてを諦めた顔で朔哉が笑う。
その顔にまるで張り裂けてしまったかのように胸が痛んだ。

「捨てる、人間の世界。
お父さんとお母さんにもう会えなくたっていい。
だから朔哉と、結婚する」