父が憎まれ口を叩くのは、反対にその気持ちを隠したいからだともう知っている。
少し前までその言葉通り取ってよく喧嘩していたが、それすらもいまは懐かしい。

「いなくなったら淋しがるくせに」

「……うるさい」

ぷいっと視線を逸らした父の目にもうっすらと涙が浮いていた。
そういう私も何度も目もと擦ったせいで、化粧が剥げていないか心配になってくる。

「じゃあ、行くね」

「ああ、元気で」

いままで育ててくれたお礼と、最後のわがままをきいてくれた感謝を込めて、両親へあたまを下げた。

「あら、雨ね」

外に出た母の声につられて私も空を見上げる。
眩しいくらいの晴天なのに、雨がしとしとと降っていた。

「本当に狐の嫁入りだな」

苦笑いの父に私も苦笑いしかできない。

「幸せになれよ」

「はい」

空元気でもいいので目一杯明るく笑う。
父も母も笑ってくれた。
促すように父が小さく頷き、私も頷き返す。
狐の半面をつけた介添えの女性に手を取られ、一歩踏み出した。

――これでもう、二度と両親に会うことはない。

狐の半面をつけた、和装の男女の花嫁行列は雨の中を粛々と進んでいく。