いまは、こんなふうに気遣ってくれる。
頑張ってたすき、縫った甲斐があったな。

「そういえば黄泉にも、導き草が咲いていたんだよ」

あれの手助けもあったから、出口まで進めた。
そうじゃなければとっくに伊弉冉様に捕まって連れ戻されていただろう。

「言っただろ?
これは迷う人を導く花だった。
迷っている人がいれば、どこにでも咲く。
それに……」

言葉を切った朔哉は、私の髪を一房取って口付けを落とした。

「これが心桜を導いてくれたから、私は心桜を迎えに行けた」

「そういえば黄泉には入れないって言ってたよね?」

でも朔哉は黄泉比良平坂を降りていた。
よかったんだろうか。

「あそこはね。
ギリギリセーフ」

「セーフ?」

なにが、セーフなんだろう。
千引の岩から向こうは黄泉だって聞いているけど。

「すぐ傍に桃の木があっただろう?」

「桃の木?」

あった、桃の木。
暗闇の中で、きれいだった。

「あの桃はね、伊弉諾様をお助けした木で、名前もいただいた立派な神様なんだ」

「そうなんだ」

知らなかった。
なんでこんなところに桃の木なんてあるんだろうとは思ったけど。