ひょいっと朔哉に簡単に抱えられてしまうほど小さかった私も、ずいぶん背が伸びた。
いや、いまでも相変わらず、背の高い朔哉に簡単に抱えられてしまうが。

そしてあの日から、朔哉の姿は変わっていない。
その群青と金の瞳も、黒髪も。
白シャツに黒パンツ姿も。

――二十代半ばの、その見た目すらも。

きっとこのまま私が年をとっても、朔哉はこのまま若々しいままなのだろう。

「あ、これ。
頼まれてた本。
経済学の本なんて難しいもの読むんだね。
やっぱりお稲荷様だから?」

「んー?
商売繁盛のお願いも多いからね。
勉強はしとかないと。
まあそれに、単純に面白いからっていうのもあるけど」

「ふーん」

朔哉は嬉しそうにぱらぱらと受け取った本を捲っている。
その姿は若い学者さんにしか見えない。

朔哉に頼まれてはたびたび、本や電化製品などを届けている。
眷属の方に頼めば人間界のものも手に入るらしいのだが、なぜか希望のものが届かない。
どうも皆様、お遣い下手なのらしい。
なので私がちょいちょい頼まれるようになった。

「最近はスマホがあるから、便利になったけどね。
これも心桜のおかげだよ」