「だって……」

これを作るのに、そんなチートみたいなことはしてはいけないと思った。
全部私の手で、作り上げないと。

「本当に心桜は可愛いな」

ちゅっ、また朔哉の口付けが指先に落ちる。
じっと私の目を見たまま、見せつけるように。
そのまま、何度も、何度も。

「さ、朔哉ー」

「ん?」

言いたいことはわかっているはずなのに、朔哉はまた私から視線を逸らせずにちゅっと指先へ口付けを落とした。

「今日の心桜、凄く美味しそうな匂いがする」

「……ん」

すん、と朔哉に耳裏の匂いを嗅がれるだけで、鼻から甘い吐息が抜けていく。

「……ね。
食べちゃって、いい?」

訊きながらも着物の裾から朔哉の手が滑り込んできた。

「……や。
ここだと、宜生さん来ちゃう……」

「大丈夫だよ」

私の返事を待たずに、作っていたたすきで朔哉が目隠しをする。

「……いま、可愛い心桜を食べたいんだ」

「あっ」

触れた唇で、朔哉が面を外しているのがわかる。
そのまま――。



「できたー」

投げ上げたたすきが、ひらひらと落ちてくる。
五十本、手縫いで本当に頑張った。

「お疲れ、心桜」