「奈木野の家の子か。
そういえば修一(しゅういち)に嫁いできた女には少し、力があったな」

長い足を組み、ソファーの背の向こうへ片腕を落とした朔哉は、きっと狐面がなければ絵本の王子様に見えるだろう。

「お祖母ちゃんを知ってるの?」

「まあな」

お茶を啜る朔哉は、酷く絵になった。
思わずぼーっと、見とれてしまうほどに。

「ねえねえ。
なんでお面なんかで顔を隠してるの?
ない方がいいのに」

「これか?」

彼のきれいな右手が、面に触れる。

「……この下にはお前など、一目見ただけで気絶してしまうほど恐ろしい顔が隠されているのだ」

くっくっくっと喉の奥で、楽しそうに朔哉が笑う。
それは本当に食ってしまわれそうで魂の底から冷え、ぶるぶると身体が震えた。

「……なーんて冗談だ。
私も、ここのモノたちも、ある事情があって面が必要なのだ。
絶対にふざけて外そうなんて思うなよ」

「……うん」

すっかり怯えてしまった私を、朔哉はおかしそうにくすくすと笑っている。
どこまでが本気で、どこまでが嘘かわからず、とにかく面ことには触れないようにしようと誓った。

「そういえば、お兄ちゃんの名前は?」