「さっき、振り回されてるって言ってましたけど……?」
「それは彼女が悪いわけじゃなくて、俺がから回ってんの」
「好きすぎるがゆえ、ですか」

 藍河さんが年下だからといって自分勝手に振り回しているようなら許せないと思ったけれど、どうやらそうでもないらしい。
 彼が前のめりになりすぎているだけだ。

「五歳年上ですもんね。彼女さんの尻に敷かれてそう」
「はは。そう思うだろ? でも綾子さんはやさしい人だ。たまに見せるかわいらしい仕草や表情がたまらないんだよ。無意識に抱きつきたくなる」

 ギャップ萌え、というやつだろう。
 今の言葉で相当惚れているのだとわかった。彼女のことが本当に大好きなんだ。
 聞けば聞くほど私の心には傷が増えていくけれど、こうでもしないと胸の奥でくすぶっている火を消火できない。

「あっという間に結婚しちゃうんじゃないですか?」

 トドメを刺されるような質問を自分からするなんて、今夜の私はまともとは思えない。
 家に帰ったらたくさん涙が出そう。でも今はまだ泣いたらダメだ。
 ふと歩みが止まり、隣にいる藍河さんのほうを向くと自然に視線が交錯した。

「紅野は……俺に結婚してほしくないのか?」
「……え?」
「そんな顔で男を見つめるな。勘違いされるぞ?」

 そう言われても自分がどんな顔をしているのかわからなくて、そのまましばし固まってしまった。
 彼はあきれたような困り顔を崩さないまま、小さく溜め息を吐きだす。
 
「勘違い、じゃないとしたら?」
「なに言ってんだ。酔ったのか?」
「私がザルだって、藍河さん知ってますよね?」