歩いていてふと見つけた自動販売機に近づいていき、ペットボトルの水をふたつ買ってひとつを藍河さんに手渡した。
 深酒をしたあとはたっぷり水分を摂らないと翌朝喉が渇いて大変なことになる。

「お。気が利くな。今度なにか奢る」

 ペットボトルに口を付けてゴクゴクと水を飲む姿までカッコいい。
 喉仏が上下する動きがセクシーで、ぼうっと見惚れていると自動的に胸がドキドキしてくる。

「じゃあ、回らない高級なお寿司たらふく食べさせてくださいよ」
「マジか!」

 たわいもない冗談を言って笑い合えるのも好きだった。
 藍河さんの笑顔はいつでもキラキラと輝いていて綺麗だから。
 気持ちにケリをつけなきゃいけないこんな夜に限って、好きなところばかりが頭に浮かんでくるのはなぜだろう。

「ふたりでは行けませんね。ていうか私、次から飲み会に誘われなくなるんですかね?」
「なんで?」
「彼女さん……心配するんじゃないですか?」

 とぼとぼ歩きながらチラリと隣に視線を送ると、少し考え込んだ彼が首を横に振った。

「綾子さんはそういうタイプじゃないから」

 ヘヘっと照れたように笑う彼を目にした途端、グサリと心に矢が刺さった。
 脳裏で恋人を思い浮かべているその表情は、まさに“恋する男”そのものだ。
 彼のこんな顔は……初めて見た。

「落ち着いた大人の女性なんですね」
「ああ。いつも俺ばかり一生懸命になってる」

 うらやましいと、心からそう思う。
 私も藍河さんから追いかけられる存在になりたかった。