「え、どうしたんですか?」
「俺も歩く」
「付き合わなくていいですよ」

 ひとりになって気持ちを落ち着かせたかったのに。
 予期せずふたりきりという状況に陥ってしまった。

「ほっとけないだろ」

 思えば、こうしてそっと寄り添ってくれるところに自然と惹かれたんだった。
 構ってもらえることがうれしくて。
 でも、好意を抱いていると行動で示すことさえできなくて。
 私は今も、ひそかに思いを寄せるだけの、ただの子どもだ。

「よく許してるよな」
「……なにがですか?」
「紅野の彼氏だよ。自分の彼女が夜道をふらふら歩いてたら心配するだろう」

 顔をしかめる彼を横目で見つつ、フフッとほくそ笑む。
 遠回しな言い方だけれど、藍河さんは私を心配してくれたのだ。それがとてつもなくうれしい。

「昔、紅野たちの新入社員歓迎会をやったとき、終わるころに迎えに来てたよな。背の高い男だった」

 そんなこともあったっけ、と思い出した私も懐かしくなった。
 別れたあと一切連絡は取っていないけれど、元カレは元気にしているだろうか。

「大学生のときから付き合ってるんなら、もう長いよな?」
「私の話はいいですよ。ていうか、だいぶ酔ってます?」
「そりゃ酔うって。みんな俺に酒を勧めすぎ」

 綾子さんのことを聞き出そうとしてなのか、たしかに高杉さんと判田がしきりに飲ませていた。
 今夜の彼は珍しく饒舌だったのでふたりの作戦勝ちだ。
 本人もなんだかんだ楽しそうに聞かれたことには答えていたから、話したかったのかもしれないけれど。