「彼女さんの名前は?」

 まだまだ逃がさないとばかりに判田が尋ねた。このあとも彼を質問攻めにするつもりなのだろう。

綾子(あやこ)さん」
「美人なんでしょうね~」
「ああ。彼女みたいな人を才色兼備って言うんだろうな」

 どうやら彼女は素晴らしい才能と美しい容姿を兼ね備えているらしい。
 大手企業に勤務していて、キャリアアップ志向が強いのだとか。

 聞けば聞くほど私とはタイプが全然違っていて胸がえぐられた。
 私は今の会社に不満はないけれど、バリキャリとは程遠い。大人っぽくもない。
 だとしたら、勇気を振り絞って告白したとしてもフラれていたかもしれないな。
 タラレバを考えるのは不毛だと気づいて首を振り、もう何杯目かわからないハイボールをぐっと飲み干した。

 お開きになって居酒屋の外に出ると、お酒が弱い判田はかなりの千鳥足になっていた。
 先輩である高杉さんの肩に手を置いて掴まり立ちをしている状態だ。

「俺、タクシーでコイツを送って帰るわ。フラフラだからな」

 高杉さんが判田を支えつつスマートにタクシーを拾う。本当に面倒見がいい先輩だ。
 私は「ありがとうございます。おやすみなさい」と声をかけて発進するタクシーを見送った。 

「紅野は? 電車で帰るのか?」
「はい。今日は飲みすぎたので、隣の駅まで歩きます。お疲れ様でした」
「……は? 待て」

 儀礼的に会釈をして背を向けると、藍河さんがあわてた声で私を呼び止めた。

「けっこう距離あるぞ?」
「そうですね。でも夜風が気持ちいいし、星も綺麗なんで」

 軽く手を挙げて合図を送り、線路沿いの道をゆっくり歩き出したのだけれど、すぐに彼が追いかけてきて隣に並んだ。