「お前らふたり、付き合っちゃえばいいのになぁって」
「ブハッ!」

 グラスを手にしていた藍河さんがわかりやすくゲホゲホとむせた。

「変なこと言うなよ」
「動揺したのか?」
「紅野は……妹っていう感じなの。実際、“優香(ゆうか)”って名前は俺の妹と同じだからな」

 自分がよくある名前なのは自覚していた。
 だけど好きになった人の妹と同じ名前だと知ったときは、とても複雑な気持ちになった。
 私に対して親近感が湧いて好意的になるのか、妹のようにしか思えなくなるのかのどちらかだ。
 前者でありますようにとずっと願っていたが、結果は残念ながら後者だった。

「私は藍河さんをお兄ちゃんみたいだと思ったことは一度もないですけどね」

 悔しさから急に波紋を作りたくなって、ポンと石を投げ込んでみる。
 予想通り、三人が食い入るように私を見てきた。
 判田なんて小さな声で「ふぅん」とつぶやいてニヤついている。

「紅野は彼氏いるだろ」
「そうだったー!」

 私が無言を貫く中、藍河さんがあきれ顔で指摘をすると、高杉さんが天を仰いでガハハと笑った。すでにみんなかなり酔っているらしい。

 たしかに私が会社に入社したころは大学生のときから付き合っていた恋人がいたけれど、とっくの昔に別れている。
 私が藍河さんに特別な感情を抱くようになったのは、そのあとから。
 別れてフリーになったと告げるきっかけを失ったまま、二年半が過ぎてしまった。
 恋人がいることにしておけば、出会いを求める飲み会に誘われないから楽だったのだ。

 いつの日か「好きです」と告白出来たなら……。そんなぼんやりとした夢を見続けていた自分が情けない。
 もっと早く伝えるべきだった。こうなってから後悔しても遅いのに。