「どんなって……俺より五歳年上かな」
「え? そんな人とどこで出会うんすか!」
「友達同士の集まりに来てて、偶然知り合った」

 酒の肴にするなと言っていたのに、嫌がりもせずにスラスラと答える彼を見ていると、どんどん心がえぐられていく。
 本人の口から直接聞けば、こうして傷つくとわかっていた。
 けれど今夜この気持ちと決別するのなら、これは必要な過程なのだと思う。

「いいなぁ! でも藍河先輩が年上の彼女に甘えてる姿は想像つかないっすね」

 判田が冷やかすような笑みをたたえてジョッキのビールをあおる。

「いや、甘えるとかはないな」
「そうなんすか?」
「だって俺、二十八だぞ? でも……この年でなんで五つも年上の彼女に振り回されなきゃいけないんだよ~」

 なにを思い出したのか知らないけれど、藍河さんは文句めいた言葉を言い放ってケラケラと笑った。
 もう何杯目かわからないハイボールのせいで酔いが回ってきているようだ。
 だけど今の彼は、恋が実ったばかりで楽しくて仕方ない……私にはそんなふうに見えた。

「紅野、顔が怖いぞ。あれか、藍河に彼女が出来たからヤキモチか?」

 私が笑っていないと気づいた高杉さんに図星を指された。
 好きな人に恋人が出来たと聞かされたら、自然と沈んだ表情になるのも仕方がない。

「違いますよ。なんていうか……デレデレしてて、ちょっとキモいなって……」
「キモいとか言うなよ。誰でもこうなるって!」

 気持ちを見透かされないようにウソをついてごまかすと、すかさず藍河さんに反論された。

「俺さぁ、実は前々から思ってたことがあんの」

 高杉さんは枝豆をつまみながら私と藍河さんへ視線を送ってくる。
 その表情が意味深で、なにを言われるのだろうかと緊張が走った。