急いで仕事を片付け、遅れて飲み会がおこなわれている居酒屋へと向かった。
 テーブル席に見知った顔を見つけて近寄ると、ここへ座れと判田が自分の隣にある椅子を引く。
 判田の向かい側には藍河さんと同期で仲のいい高杉(たかすぎ)さんがいた。
 そして、私の正面には本日の主役である藍河さんが機嫌のよさそうな顔をしてハイボールを飲んでいる。

「紅野、遅かったな」
「すみません。お疲れ様です」

 ふんわりとセットされたダークブラウンの髪、意志の強そうな二重の瞳。
 私はいつの間にかこの人に恋をしている。――――もうずっと前から。

「紅野もハイボールだろ?」
「はい」

 彼と酒の席を共にするのはこれで何度目だろう。
 なにが好きでなにが嫌いか、互いに食の好みまで知っている。

「紅野が来るまで聞くのを待ってたんだよ。コイツの彼女の話!」

 高杉さんがニヤニヤとしながら隣にいる藍河さんをわかりやすく肘で小突いた。

「俺の話を酒の肴にするなって」

 そう言いながらも彼は照れ笑いをしていて、まんざらでもなさそう。
 もしかしたら逆に、出来たばかりの恋人のことを誰かに聞いてもらいたい気持ちがあるのかもしれない。

「藍河先輩はモテるのに、ずっと彼女いなかったですよね。で? 先輩のハートを射止めたのはどんな(ひと)なんです?」

 判田がテーブルに乗り出すように上半身を前に倒し、興味津々だと言わんばかりに核心を突く質問をした。
 私は届いたハイボールを勢いよく身体に流しつつ耳を傾ける。