「紅野、ビッグニュースだ!」
まもなく定時を迎えようという金曜日の夕方。私は会社のデスクで大量の事務作業に追われていた。
ノートパソコンのモニターを真剣に覗き込んでいると、突然背後から男性の武骨な手が伸びてくる。
「ちょっと、近いって!」
私は顔をしかめつつ、右手で肩に乗せられた手をサッと払った。
こんなことをするのは同期の判田しかいない。
いくら性別の垣根を超えて仲良くしているとはいえ、社内で誤解されるような行動は慎んでもらいたいものだ。
「今夜、先輩たちが飲みに行こうって。紅野も来るだろ?」
「……どうしようかな」
「絶対参加したほうがいいぞ。藍河先輩のビッグニュース、知りたくねぇの?」
書類をめくっていた手が無意識に止まる。
私たちより三年先輩に当たる男性社員、藍河さんの名前を挙げらると私は弱い。
しかも彼に関するビッグニュースがあるなどと言われたら、聞かずに無視するというのは無理だ。
「じゃあ……行く」
無性に嫌な予感がしたが、彼のことならどんなことでも知りたいのだから仕方がない。
「しかし紅野、その仕事終わるのか? 残業っぽいな」
「あとから合流するよ。飲み会の場所、メッセージで送っといて?」
「わかった。藍河先輩さぁ、彼女できたんだって」
最後の言葉はひそひそと耳打ちされ、私の脳内で衝撃となって伝わった。
判田が去っていったあとも全身が固まってしまって動かない。
てっきり、ビッグニュースとやらは飲み会の席で発表されるのだと思っていた。
けれどそれは意外なタイミングで私の胸に刃として突き刺さった。
「嫌な予感……当たっちゃった」
ポツリとつぶやいた小さなひとりごとは、誰もいなくなったオフィスの中に溶けて消えた。
まもなく定時を迎えようという金曜日の夕方。私は会社のデスクで大量の事務作業に追われていた。
ノートパソコンのモニターを真剣に覗き込んでいると、突然背後から男性の武骨な手が伸びてくる。
「ちょっと、近いって!」
私は顔をしかめつつ、右手で肩に乗せられた手をサッと払った。
こんなことをするのは同期の判田しかいない。
いくら性別の垣根を超えて仲良くしているとはいえ、社内で誤解されるような行動は慎んでもらいたいものだ。
「今夜、先輩たちが飲みに行こうって。紅野も来るだろ?」
「……どうしようかな」
「絶対参加したほうがいいぞ。藍河先輩のビッグニュース、知りたくねぇの?」
書類をめくっていた手が無意識に止まる。
私たちより三年先輩に当たる男性社員、藍河さんの名前を挙げらると私は弱い。
しかも彼に関するビッグニュースがあるなどと言われたら、聞かずに無視するというのは無理だ。
「じゃあ……行く」
無性に嫌な予感がしたが、彼のことならどんなことでも知りたいのだから仕方がない。
「しかし紅野、その仕事終わるのか? 残業っぽいな」
「あとから合流するよ。飲み会の場所、メッセージで送っといて?」
「わかった。藍河先輩さぁ、彼女できたんだって」
最後の言葉はひそひそと耳打ちされ、私の脳内で衝撃となって伝わった。
判田が去っていったあとも全身が固まってしまって動かない。
てっきり、ビッグニュースとやらは飲み会の席で発表されるのだと思っていた。
けれどそれは意外なタイミングで私の胸に刃として突き刺さった。
「嫌な予感……当たっちゃった」
ポツリとつぶやいた小さなひとりごとは、誰もいなくなったオフィスの中に溶けて消えた。