外に出ると、雨が降っていた。
ザーザーと、割と強めに降っている雨。
鞄に常備している藍色の折り畳み傘を差して、隣にいる水瀬に視線を向ける。
彼は鞄を漁りながら「あれ、忘れたかな…」と呟いていた。
「杉岡…ごめん。傘忘れたみたい。一緒に入っても良いかな」
「………良いよ」
私の手から傘を取り、肩をぶつけながら歩き始める。
「……」
私が濡れないように、傘を左寄りに向けられる。
傘に守られていない水瀬の右肩は、雨に濡れ水が滴り落ち始めていた。
「ごめんね、いつも鞄に入っているんだけどね…」
「……」
知っている。
今この時も、水瀬の鞄の中には折り畳み傘が入っていること。
出会った頃、今日のように雨が降っていた日。
傘を持ち歩く習慣の無かった私は、雨に打たれながら会社を後にしたことがある。
そんな私を追い掛けて走ってきた水瀬。
『待って、これ使って』
『水瀬…くん』
『いつも傘を持ち歩いているんだ。急な雨って、良くあるじゃない?』
『…でも、これ借りたら水瀬くんが…』
『大丈夫。もう1本ある』
『ふふっ…。ありがとう、水瀬くん』
今でも目に焼き付いている。
子供のような笑顔を浮かべ、社屋に走って戻る水瀬の姿。
あの日から私も、鞄の中に折り畳み傘を入れるようになった。
いつどんな時も、傘が出てくる水瀬の鞄。
だから…今日だけ入っていないなんて。
私の知る限り、有り得ない。