「で、何? 私に何を言って欲しいの?」
「何とかじゃなくて…」
「……」

煮え切らない態度の水瀬。

結婚するのは自分なのに。
何でそんな態度なのか、全く理解ができない。


「私をバカにしたいわけ? ”お前俺のこと好きだろうけど、俺は他の女と結婚するんだぜ”、的なこと? キレるよ?」
「違う、そうじゃなくて!」
「じゃあなんだよ!! 結婚するな!! 水瀬のことが好き!! 私と付き合え!! こうやって邪魔をすれば満足かよ!!」
「杉岡!!」


怒りが湧き上がり、抑えられない感情。

水瀬は叫ぶ私の体を力強く抱き締めた。


「……何してるのよ!! 同情ならいらない!」
「ごめん、杉岡」
「その場しのぎの謝罪もいらない…っ」


涙が溢れ始めた。

大好きな水瀬。
そんな彼の胸に抱かれ、悲しみと喜びを感じてしまう。


「水瀬…今も好きなんだよ…」
「ごめん…」
「バカ…水瀬のバカ……!!」
「ごめん、杉岡…」


抱き締める腕に力が入れられる。
ぎゅうっと……ていうか、何で水瀬もそんなに悲しそうなんだよ…。

窓に反射して写る私たちの姿。
顔を少しずらして真っ暗な窓に目をやると、悲しそうな水瀬の顔が…嫌でも見えてしまう。


「水瀬…それは結婚する人の顔じゃないよ」
「……」
「もっと幸せそうにしてくれよ!! まだ邪魔ができるのではないかと…僅かにでも期待してしまうじゃない…!!」
「……」
「ねぇ、水瀬…結婚しないで……」


水瀬は…何も言わない。
ただただ無言で、私を抱き締める。


「でさー、この前部長がさ~」
「……」


暫く抱き締め合っていると、遠くから声が聞こえて来た。

その声にお互いが焦って体を離し、顔を見つめ合う。


「…杉岡、もう帰れる?」
「……うん」
「一緒に…帰ろ。もう少し、杉岡と話したい」
「……」


どういうつもりなのか。
水瀬の考えが全く分からない。