「はい、恵衣も浅葱色だね。おめでとう。二年生も頑張ってね」
「はい」
つり気味の涼し気な目をした男の子が薫先生から袴を受け取る。
表情は変えず淡々と答えた。
「リアクション薄いなぁ。俺この瞬間が一番楽しみなのに」
「袴ひとつで喜んだりしません」
やな感じ〜、と来光くんが口を挟んだ瞬間物凄い勢いで睨みを聞かせた恵衣くん。はいはい喧嘩しない、と薫先生がすかさず声をかけてぷいっと顔を背けた。
彼、京極恵衣くんも一年の時からのクラスメイトだ。
「綺麗な浅葱色だね」
振り向いて声をかける。机の上で袴を畳みながら恵衣くんがちらりと私を見た。
「……まぁな。来年は紫履くけど」
相変わらず素っ気ないけれど、開けば憎まれ口を叩いていた一年前に比べればだいぶマシになった方だ。
とても優秀な人だけれどとにかく口が下手くそで、来光くんとは顔を合わせるだけで喧嘩になる。三学期の神社実習で二人が協力する場面が何度もあって、そこでの二人は息ピッタリだったのに終わった途端いがみ合っていて、やっぱり相性は最悪みたいだ。
でもクラスの輪には少しずつ参加してくれるようになった。今みたいに話しかけても睨まれて無視されることはなくなったので大きな変化だろう。