薫先生に連れられてやってきた場所は、神修の研究室でも職員室でも寮でもない。私もまだ一度しか足を踏み入れたことがない日本神社本庁の庁舎だった。
勝手知ったる様子で中を進む薫先生。本庁の役員は基本スーツ姿だから、神修の敷地内なら違和感が無いはずの紫色の袴がかなり浮いている。
なんなら私服姿の私はもっと浮いている。
建物の二階の一室に連れてこられた。"会議室 梅"と書かれたプレートがはめてある。
カチャリと扉を開けたけれど中にはまだ誰もいない。
ローテーブルにふかふかそうな一人がけの革張りの椅子が六つテーブルを挟んで並んでいるだけの質素な部屋だ。
「少し早かったか。でもちょうどいいや。巫寿、そこ座って」
椅子を指さした薫先生に、ひとつ頷き腰を下ろす。薫先生はなぜか私の隣に腰を下ろした。
「あの、薫先生……?」
「ごめんね急に。本庁のヤツらよりも先に巫寿と二人で話したくて、門まで迎えに行ったんだ」
はぁ、と曖昧な返事をする。
一体薫先生は何が言いたいんだろう。
きゅっと眉間に皺を寄せる。
「巫寿ん家に届かなかったでしょ? 合格通知と証明書」
「あ、はい。どうしてかなって丁度考えてました」
だよね、と薫先生がひとつ頷く。
「学生が受験する場合、進級とかクラス分けにも関わってくるから、一旦結果は神修の教職員を経由してから学生に伝えられるんだ。だから巫寿の合格証明書は俺が持ってる。ちゃんと合格してるから安心して」