その時「おい恵理、動くなっていったじゃん。めっちゃ探したんだけど」そんな声とともにこれまた見慣れた顔の男の子が恵理ちゃんの肩にぽんと触れた。
その人と目が合ってお互いに驚きの表情を浮かべた。
「巫寿!?」
「泰紀くん?」
恵理ちゃんの名前を呼んだのはクラスメイトの泰紀くんだった。
そこで以前恵理ちゃんとした会話を思い出す。
"あ、でも春休みは会うんだよ! 4月の頭に家族旅行に行くって話をしたら、丁度泰紀くんも用事で近くにいるんだって。少しだけ会える?って言われちゃった! 近くの神社で雛祭りのイベントやってるから一緒に行こうって〜"
雛祭りのイベントってこの事だったのか!
ということは二人は今、デート中というわけだ。
二人を見比べる。興味深げにお祭りの様子を眺める恵理ちゃんに、耳を真っ赤にして狼狽える泰紀くん。
雛渡りを手伝うことはお兄ちゃんにしか話してないし、まさか泰紀くんも私が居るなんて思っていなかったんだろう。
まさか親友とクラスメイトのデートシーンに遭遇してしまうなんて。
「あ、あの。大丈夫だよ泰紀くん、絶対に誰にも言わないから」
「……トッテモタスカリマス」
カタコトな口調に思わず吹き出した。
行くぞ恵理、と手を引いて歩いていった二人を小さく手を振って見送る。
それにしても、いつの間に恵理ちゃんのこと呼び捨てにするようになったんだろう。
明らかに以前とは距離感の違う二人に少し頬が緩んだ。