「その……瑞祥さんに言葉では伝えないんですか……?」
横目でそっと見上げれば、聖仁さんはまた空を見上げて首を捻った。
「んー……どうかな。多分言わないと思う」
意外な返答に目を瞬かせた。
「だってさ、俺たちの言葉って口にしたら言葉通りになっちゃうでしょ。もちろん好きな女の子に振り向いてもらうために言霊の力なんて使わないけど、多かれ少なかれ言霊と力は宿っちゃうものじゃない? 大切だからこそ、言葉で縛りたくない。だったら、瑞祥が自ら振り向いてくれるまで態度で示したいかなって」
恥ずかしそうにはにかんだ聖仁さんに、胸がいっぱいになって言葉が出てこなかった。
"大切だからこそ言葉で縛りたくない"、その言葉が聖仁さんの想いを全て物語っている。
言葉が全てなこの界隈でそう断言できる聖仁さんがとても素敵だった。
「まぁ一生振り向いてもらえない可能性もあるんだけどね。なんせあの鈍感娘が相手だから」
はぁー、と息を吐いた聖仁さんに思わずふふっと笑う。
鈍感娘って。
確かに昨晩のガールズトークで、瑞祥さんは恋愛に疎くて慣れていないのは何となく分かったけれど。
けれどやっぱりこれから先、聖仁さんの隣を歩くのは瑞祥さんでいて欲しいし、瑞祥さんの手を引くのは聖仁さんであってほしい。
そう願ってしまう。