「あの、正直びっくりしました。お二人が喧嘩するところなんて初めて見たので」
話題を変えても変な気がして恐る恐るそう口を開く。
目を瞬かせた聖仁さんはけらけらと笑った。
「そりゃ後輩が見てる前で喧嘩なんてしないよ。見てないところではしょっちゅう喧嘩してるけどね。勝手にアイス食べたとか食べてないとか、しょうもない事で」
そうだったんだ。
学校内で見る聖仁さんと瑞祥さんは何でも分かりあっている唯一無二の相棒、みたいなイメージが強い。
私生活でもそんな感じなのかと思っていたけれど、ちゃんと普通に喧嘩していたんだな。
「まあ今回みたいに尾が引く喧嘩は滅多にないけどね」
力なく笑うと息を吐いて空を見上げた。
「本当は分かってる。俺が悪いんだ。瑞祥の言う通りだよ。最近ちょっとやり過ぎなのも自覚してるんだ」
真っ直ぐ前を見つめたままアイスをかじる横顔を見た。
とても優しい顔だ。聖仁さんはたまにこんな表情を浮かべている。その先にいるのはいつも瑞祥さんだった。
聖仁さんが過保護な理由は何となく分かる。二学期に瑞祥さんが倒れたことが原因なんだろう。
次々に学生が倒れていき、神職の命でもある声が出なくなった。命の危険にさらされた状態だった。
そんな状況でただ祈ることしか出来ない自分がどれだけ歯がゆかっただろうか。