全力で遠慮したけれど「いいからいいから」と絆されてしまい結局いちご味のアイスを買ってもらった。
「あの、すみません……ありがとうございます」
「いいのいいの。たまには先輩風吹かさせてよ。それに昼間は迷惑かけちゃったしね」
同じくチョコ味のアイスを買った聖仁さんは苦笑いを浮かべながら一口かじった。
昼間の一件を思い出す。
あの後ちゃんと十分後には帰ってきた瑞祥さん。すかさず聖仁さんが話しかけに行ったけれど、ツンと顔を背けて一切耳を貸さなかった。
直ぐに練習が再開して何度か通し稽古が行われた。もちろん二人の舞は完璧だったけれど、それ以外の部分が最悪だった。
『どこにそんな仲の悪いお内裏さまとお雛さまがいるんですかッ!』
喧嘩が尾を引いているせいで一切目も合わせず不機嫌さを丸出しにしていた二人に、総指揮を務める巫女頭が眉を釣りあげてそう叱りつけた。
叱られたあとは流石に反省したのか、不機嫌さはしまったけれどやはりいつも通りとは行かないらしい。
その小さな歪みがやがて舞にも影響し始めて、二人の息は稽古を重ねるごとに合わなくなっていった。
結局夜遅くまで稽古を続けて何とか巫女頭が納得のいく水準までは戻ったものの、二人の間を流れる空気は変わらず気まずいままだった。