事件が起きたのは昼休憩を挟んだ後、神楽殿でパート練習が始まって少しした頃だった。

バダンッと大きな音がして驚いた皆がピタリと動き止めた。音のした方へ視線をやると、床に手をついた瑞祥さんが座り込んでいる。


「いってー! 久しぶりに裾踏んだ!」


パッと顔を上げた瑞祥さんはケラケラ笑って恥ずかしそうに頬を掻く。


「おいおいついに瑞祥が転けたぞ!」

「おっ、だったら今年の賭けは俺の勝ちだな!」

「しっかりしろよ瑞祥〜!」


五人囃子の神職さまたちがゲラゲラ笑いながらそう声をかける。


「アハハッ、私を賭けの対象にするなよな〜」


なんだ、瑞祥さんでも裾を踏んで転ぶことはあるんだ。

和やかな雰囲気に頬を緩ませたその時、ちょうど宮司に呼ばれて社務所へ戻っていた聖仁さんが戻ってきた。

笑う私たちに目を瞬かせる。


「何かあったの? 楽しそうだね」

「お、聖仁! いやそれがさぁ、ついに瑞祥が────」


神職さまが言い切るよりも先に、聖仁さんが動き出した。

座り込む瑞祥さんに血相を変えて一目散にかけよるとその両肩を抱く。


「瑞祥!? 何があったの!」

「落ち着けって聖仁、裾踏んで転けただけだよ」


笑いながらその手を押しのけようとするけれど、聖仁さんは離さなかった。