今から約十三年前。突如として現れた最強最悪の妖空亡は、沢山の神職を襲い現世を暴れ回った。
手も足も出ず犠牲者は増える一方で統制も上手く取れない状況の中、立ち上がったのが"かむくらの神職"と呼ばれる義勇軍だ。
両親もそれに参加し勇敢に戦い敗れた。
そして沢山の犠牲者を生み深い傷を残した空亡戦は、禄輪さんと当時の審神者志ようさんによって終止符が打たれた。
「志らくから授力について習ったのか。志らくは信頼に足る人物だ。授力については私からは何も教える事が出来ないから良かったよ」
アパートの階段を登りながらそんな話をしていると、二階の私の部屋から「イコくん、多分巫寿帰ってきたよ! 今声聞こえたもん!」と賑やかな声が聞こえた。
インターホンを押すまでもなく、ドアの前に着くと同時に勢いよく扉が開いた。
「おかえり巫寿ッ!」
びっくり箱のように中から飛び出してきた恵理ちゃんは私に抱きつく。受け止めきれずふたりして後ろにひっくり返った。
「え、恵理ちゃん! ビックリした!」
「ねぇねぇ聞いてよ! もう私聞いて欲しい話すっごいあるんだから! とくに泰紀くん関連で〜ッ!」
「分かった分かった……!」
ギブギブ、と恵理ちゃんの背中を叩く。
頭の上で禄輪さんが目を弓なりにしてくすくすと笑う。
「元気なお嬢さんだな。君が巫寿の親友の恵理ちゃんだね」