「結びを交わした際に、恐らくあの男は見ておりました。慌てていたのか、書物を崩して逃げていくのが横目に見えました」
思い出した。神修へ編入して1ヶ月くらい経った頃だ。
クラスメイトと学校内で迷子になって、偶然空亡の残穢が保管されている場所へ辿り着いてしまった数日後、文殿で十二神使のことを調べてその後眞奉と結びを交わした。
終わったあと背後で積み上げていた書物が崩れて、その時は慶賀くんたちが適当に積み上げたから崩れてしまったのだと思っていたけれど、そうじゃなかったんだ。
あの時、影から方賢さんが見ていたとしたら。
あ、と声を漏らす。
「方賢さんと戦った時、髪を掴まれて……」
「間違いない。その時だな」
禄輪さんは苦い顔で息を吐いた。
「でもどうして……。私が十二神使を使役していたとしても、方賢さんが何か不利になるようなことが起きるわけでもないですよね? なのになぜ私と眞奉を離れ離れにさせたかったんでしょうか」
それもそうだ、と禄輪さんは考え込むように顎に手を当てて俯く。
不安な気持ちで振り返ると、眞奉は相変わらず無表情でじっと私を見つめていた。
分からない、どうしてこんな事になっていたのか。何が起きているのか。