私がリアクションするよりも先に禄輪さんが大きな音を立てて身を乗り出した。中腰になって目を見開き眞奉を見つめる。
その表情は怒りでも驚きでもなく、焦燥が滲んでいるように思えた。
「……誰だ?」
静かな質問に眞奉は首を振る。
「分かりません。その場にいなかったもので」
「それもそうか……」
息を吐いて座り直す。
そんなやり取りに戸惑いながらも小さく手を上げると、「どうした?」と禄輪さんは表情を和らげた。
「えっと……もし私に呪がかけられていたとしても、何一つ心当たりがないんですが……」
呪いは遠いところからでもそれなりの強い力が込められていればかけることは出来る。
でも眞奉は弱いものと言った。被呪者の私が自分で眞奉のことを思い出せたくらいだから、本当に弱い呪だったのだろう。
「至近距離で呪われたか接触されて呪われたことになるが、記憶にないのか?」
小さく首を振った。
「眞奉のことを知っているのは、禄輪さんとお兄ちゃんだけですし……」
この一年間、眞奉のことを誰かに喋ったことは一度もない。だから第三者が私から眞奉の記憶を抜きとるなんて出来るはずがない。
普段だって見えない姿でそばにいたし、誰かに見られることなんて。
「私の姿を見たものでしたら、ひとりおります」
落ち着いた声に弾けるように振り返った。