言祝ぎの子 伍 ー国立神役修詞高等学校ー



「なかったね。これからも色々ありそう」


くすくすと笑いながらそういえば、隣から深いため息が聞こえた。

顔を上げると腕を組んだ恵衣くんが苦い顔で私を見下ろしている。


「口に出すな、言霊になるだろ。これ以上俺に迷惑をかけるな」

「またそんなこと言う」

「だからなんだよ。うるさい」


今日は鼻を鳴らす代わりに、小さくふっと笑った恵衣くん。珍しいものを見て少し驚いたけれど、口に出すとすぐに怖い顔に戻りそうなので黙っていることにした。

横目でその優しい横顔を盗み見て頬を緩めた。


「そろそろ戻ろうか」


皆が寮へ向かって歩き出す。

空には三日月が昇っている。鎮守の森に住む虫たちの声がいつの間にか賑やかになっていた。社頭を吹き抜ける風は湿気を帯びていて顔を火照らせる。

神修へ来て二度目の夏がもうすぐやってくる。





【続く】