ひらりと綺麗な黒髪が横切った。間に割り込んできたのはその女の子は涼やかなつり目を一層釣り上げて私を睨む。
美女に睨まれると迫力があるってこういうことか。
「鬼市さん、もうすぐ車が出ますわよ。早く行きましょう」
「ちょ……おい鬼子」
引きずられるようにして連れていかれた鬼市くん。相変わらず鬼子ちゃんは強烈だ。
鬼子ちゃんには結局最後までライバル認定されたままだ。次に会う時にはきっちり誤解だと伝えたいし、鬼市くんにも紛らわしい態度は取るなと伝えなければ。
信乃くん達にももう一度挨拶をして別れた。やがて鞍馬の学生たちが車に乗り込んでいく。
皆が車の窓から顔を出してくれた。
「またな!」
身を乗り出す三人に、私達は大きく手を振った。
ご神馬さまがブルブルと首を振って、車はゆっくりと走り出す。車輪が回る音に負けないくらいの別れを惜しむ声が飛び交った。
初等部の子供たちが楽しそうに声を上げて車を追いかけて走り出す。
私たちは車が見えなくなるまで手を振り続けた。
「あーあ、皆帰っちゃったね」
来光くんは少し伸びをしてそう呟いた。
「ずっと賑やかだったから、ちょっと寂しいね」
「つってももうすぐ夏休みだし、明けたら今度はあっちの神修じゃん」
「今学期も色々あったよなぁ」
「俺ら入学してから今までで、平和な学期ってあったか?」
泰紀くんのそんな問い掛けにプッと吹き出して答えた。



