う、と苦しそうに呻いた鬼市くんが恨めしそうに恵衣くんを見た。
「……俺、巫寿とハグしたかったんだけど」
「させるかむっつりスケベ野郎!」
「お前だってそうだろ」
傍から見ると熱い抱擁を交わしながら言い争う二人が何だか面白くて、思わずプッと吹き出す。
眉を釣り上げた恵衣くんはわざと鬼市くんの顔に手を置いて立ち上がった。
「そろそろ行こか……って、瓏はどないした?」
さっきまでいたはずなのに瓏くんの姿が見当たらない。
「便所じゃね?」
「……ったく、探してくるから先行って荷物積んどいて」
鬼市くんにボストンバッグを託すと、小走りで広間を出て行った。私たちもそろそろ移動しようか、そう提案しようとしたその時。
「巫寿、ちょっといいか」
突然背後から名前を呼ばれた。
振り向けば瑞祥さんがちょっと困ったような顔をして立っている。
その背中に隠れるようにして立つ二人の女の子。「ほら」と背中を押されて前に出た二人に唇をすぼめた。
「巫寿、大丈夫か」
私の反応に違和感を感じたのか鬼市くんが不安そうな顔で私の肩を引いた。顔を上げてひとつ頷く。
「大丈夫、ありがとう。みんなは先に行ってて」
何か言いたげな顔をしたけれど私の意見を尊重してくれるらしく、「先行ってる」と広間を後にした。



