「────鞍馬の神修の学生さんは、車乗り場に集合してください!」
夕飯を食べ終えて、車の時間までの束の間を広間で談笑していた私たち。もうそんな時間か、と信乃くんが荷物を持って立ち上がる。
「なかなか楽しい数週間やったわ。あの優顔の兄ちゃんにもよろしく伝えといて」
少し照れたように手を差し出した信乃くん。皆は満面の笑みで握り返した。
「世話になった」
普段は無表情な鬼市くんが目を弓なりにして微笑んだ。「鬼市〜ッ!」と感極まった様子の泰紀くんが別れを惜しむように熱い抱擁を交わす。何故かその流れで交互に抱擁することになり、皆と一人ずつ別れを惜しむ。
私の番が回ってきて、鬼市くんが手を広げた。
「巫寿」
名前を呼ばれて「ほら」と軽く手招きされる。さすがに抱擁は恥ずかしいので握手にしてもらおうと一歩前に出たその時。
「おい! 馬鹿なのかおま……ッ!?」
輪の隅で相変わらず不機嫌な顔をして立っていた恵衣くんが目を剥いて大きく一歩出した。踏み出した右足は誰かが置きっぱなししていた座布団を踏んづけてつるりと前かがみに滑る。
うわぁッ、と普段なら聞けないような恵衣くんの焦った声がして、両手を広げた鬼市くんが「え」と振り向く。
次の瞬間、二人の体が重なって傾いた。咄嗟に目を瞑ると、柔道の受け身を取るような激しい音が響く。
「二人とも大丈夫!?」
嘉正くんの焦った声で目を開けると、鬼市くんを下敷きにして恵衣くんが倒れ込んでいた。



