言祝ぎの子 伍 ー国立神役修詞高等学校ー


皆の視線が集まってするする頭が下を向く。膝の上の拳が何かをこらえるようにぎゅっと握られる。思い詰めた表情で唇をすぼめた。

実は私も、ずっとその事が気にかかっていた。

奉納祭が終わった後からだろうか、ずっと慶賀くんの表情が冴えなかった。休み時間に泰紀くんとふざけることもなく、放課後遊びに誘ってもぼんやりしていることが多かった。

最初は奉納祭の疲れが取れなくて元気がないのかと思っていたけど、時折今みたいな思い詰めた顔をしていることがあった。


「今のまま始めても楽しめないでしょ?」


目を細めた薫先生がテーブルにコップを置いて椅子に座る。身を乗り出して膝に肘をついた。

皆が不安げな顔で慶賀くんの顔を覗き込む。その視線から逃げるようにど頭が下がっていく。


「慶賀?」


名前を呼ばれたその瞬間、俯く顔から雫が落ちた。ぽたぽたと落ちて手の甲を濡らす。

仰天した泰紀くんがどうしたものかとわたわた手を動かした。


「ど、どうしたよ!?」

「な、何泣いてんだよ慶賀?」


クラスいちお調子者の慶賀くんの涙に、皆分かりやすく狼狽した。

慌てた来光くんが「とりあえず涙拭いて」と布を顔に押し付ける。雑巾だった。


「メソメソするな鬱陶しい。言いたいことがあるならハッキリ言え」


面倒くさそうに息を吐いた恵衣くんがそっぽを向いて言い放つ。そんな言い方しなくても、と私が窘めるとふんと鼻を鳴らした。