居間に顔を出すと、禄輪さんが書き物をしている所だった。私と目が合うと起きたか、と目を細める。


「よく眠れたか?」

「あ……はい。運んでくれたのは禄輪さんですよね? ありがとうございました」

「何の。体は平気か? 丸二日飲まず食わずだったからな」


丸二日!?と素っ頓狂な声を上げた。

通りでさっきからお腹が聞いた事のない音を立てていると思ったら。


「こちらどうぞ」


眞奉の白い腕が横から何かを差し出した。お米の柔らかい匂いを含んだ湯気が頬を撫でる。コトンと目の前に置かれたお椀の中身はお粥だった。


「審神者は不在でも神饌(しんせん)は届けられていたようで、簡単ですが拵えました。胃に優しいものをと思いましたので粥にしております。海苔の佃煮とどうぞ」


神饌というと神様にお供えする食べ物やお酒のことだ。神職の食事も神饌で作られることがある。

空きっ腹に嬉しい気遣いだ。


「ありがとう、いただきます」


パクリと匙を咥えて頬を緩ます。


「眞奉ってご飯作るの上手だよね。十二神使ってなんでも出来るの?」

「いえ。先代の審神者の趣味に付き合っておりましたゆえ」


なるほど、志ようさんが。

一礼した眞奉は黙って私の後ろに座った。


「食べながらでいいから聞いてくれ」


禄輪さんが筆を置く。